2024年 年頭所感
2024-01-23
大塚雅之 NPO給排水設備研究会会長理事
給排水設備研究会誌創刊号に思う―さらなる10年・次世代と共に国際化への対応を
大塚雅之 NPO給排水設備研究会会長理事
会員の皆様、明けましておめでとうございます。昨年は新型コロナウイルス感染症も5類に移行され、各所で宴の場も再開し、コロナ明けを感じさせる1年でした。本研究会も昨年11月には、創立40周年の記念式典を開催し、約170名の参加者が集い、懇親会も大盛況でした。また、記念誌「水の未来―過去から現在、そして未来へ続く水の営み―」も刊行できました。これもひとえに、記念行事の実施にご尽力頂きました関係各位、賛助会員の方々、日々、ご支援頂いている会員の皆様のお陰かと思います。あらためまして厚く御礼申し上げます。
さて、創立40周年の式典ではその歴史を綴った給排水設備研究会誌・創刊号を手に取り、ご挨拶させて頂きました。この創刊号の表紙は、実は初代会長の紀谷文樹先生のデザインによるものです。本会は「国際的視野に立って給排水設備分野の研究及び技術水準の向上と情報交流に努めるとともに、会員相互の親睦を図ること」を目的として創立されました。冒頭の「国際的視野に立った…」の文言には、特にCIB W062を中心とした海外の給排水設備研究活動への思いが強く込められています。創立40周年を契機に次の10年、「水の未来」に向けて、給排水設備研究は国際化へ大きく舵を切る時期かと思います。
昨年、9月にベルギー・ルーベンで開催されたCIB W062国際シンポジウムに調査団の団長として参加しました。排水設備、衛生器具設備における感染症対策、節水やネットゼロウォータービル(ZWB)の評価、各国の試験方法・規格規準の比較検討など、国際研究も新たなテーマに直面しています。コロナ感染拡大の最中も国際ジャーナルでは、多くの給排水設備研究論文が公開されていましたが、国内ではそのようなムーブメントは起こらず、研究の中心は空気環境・換気設備でした。国内の研究者・技術者は、その動向を把握していたのでしょうか。衛生器具の節水化においても、2022年にはISO31600「水効率ラベリングプログラム=実施のためのガイドラインを伴う要求事項」が制定され、その中にわが国の衛生器具規格JIS A 5207も盛り込まれました。また、今回のCIB W062国際シンポジウムでは、アメリカの講演者が各国の規格・基準を比較していましたが、残念ながらSHASE-S206等は英文化されていないため、和文のキャプションの入ったグラフが紹介されていました。節水化も国際レベルで是非を問い、論じるべきですし、国際対応のため規準の英文化は必要であることを痛感しました。また、2050年のカーボンニュートラルに向けて、ネットゼロエネルギービル(ZEB)のエネルギーベネフィットが強調されていますが、給排水衛生設備はアジア・アフリカを中心に枯渇化する水資源の確保、併せて衛生環境の確保において、災害対策上も重要であり、その方策として各国ではZWBのあり方や評価方法を模索しています。
昨年秋に台湾を訪問し、台湾科技大学の鄭政利教授と話した際も「ZEBの方針は定まったが、ZWBはこれからの展開だ。」と話されていました。ZWBの普及とともにノンエナジーベネフィットとしての水環境・給排水衛生設備の価値を創造し、発信することが大切です。
給排水衛生設備分野には、CIB W062を通しての国際化のチャンネルがあります。また、研究会でもアジア建築設備研究を推進しています。本研究会の創設の目的にあった「国際的な視点に立った研究活動」を、今後は次世代の会員の皆様と共に進めることを期待します。今年は辰年。辰には「ふるう」と「ととのう」という意味があり、陽の気が動いて万物が振動するので、活力旺盛になって大きく成長し、形が整うという意味があるそうです。駄文ながら新年の巻頭言を書いて7年を迎えますが、先日、会員の方から「毎年、年頭所感、しっかり読んでいますよ。」と激励の声をかけられました。本会を支援して頂いている多くの会員の皆様にとって、コロナも明けて新たな生活スタイルが定着した新年、水の未来に向けて、天高く昇る龍のように気分を鼓舞し、気運も上昇、健やかな一年となることを祈念します。今年もどうぞよろしくお願いします。